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〈信仰体験 SOUL 雄魂〉 その男、響かせる者なり。2018年7月14日


現実社会という舞台

 【大阪府泉大津市】どことなく、ひょうひょうとしている。豪快でもなければ、聴く者に緊張を強いる演奏でもない。テナーサックス奏者・宮哲之さん(61)=泉大津南支部、副本部長(支部長兼任)=のジャズは、日々の暮らしの中で気ままに呼吸するように、自由だ。 
 ただ演奏から離れると、後ろめたさを拭いきれずにいた。この道45年。「正直、今が一番しんどい」
  
 兄のレコードでモダンジャズを聴き、その自由な世界に引かれ始めた16歳の春。学友から、軽音楽部にあった古いサックスを「吹かへんか」と誘われた。高校でブルースバンドを組むほど、のめり込んだ。
 大学でも授業そっちのけで練習した。周りが就職する中、父に「25歳まで楽器をやりたい」と頼んだ。「あほか」と言われたが、約束の25歳で大手レコード会社からデビューを果たした。
 当時の音は「野心に満ちていた」。レコードを出して名を上げたい。喝采を浴びたい。そんな欲でステージを踏んだ。
 心の大切さを話してくれた信心の先輩がいた。「桜は自分から動かんけど、自分が輝くから人が寄ってくるんや」。はっとさせられた。宮さんは同志の中で心を磨いた。仲間から「音が変わった」と言われた。
 音の厚みを追求した日々。ジャズ界の巨匠ハービー・ハンコック氏とウェイン・ショーター氏にしびれ、炎のトランペッター大野俊三氏に圧倒された。街にあふれる音楽を耳にしては、頭の中で編曲するのが常だった。36歳、アロージャズオーケストラに入団し、ジャズシーンを駆け抜ける。音楽さえできれば。その思いは、自分のエゴだと思い知る。
  
 妻・薫さん(58)=県総合婦人部長=が家計を気にしていた。生活費、ローンの返済……宮さんは稼ぎを渡し、任せてきた。
 もちろん、これまでも苦しい時があった。結婚当初は、すし店やビルの清掃のアルバイトを掛け持ち、しのいだ。バブル崩壊の時は、家賃のかからない妻の実家に転がり込み、大工の義父を手伝って収入を得た。
 だが、おととしに義母が、昨年に義父が逝き、気が付いた。
 「義父母が暮らしを支えてくれていた」
 そこに目を向けず、演奏してきた自分が急に、情けなくなった。
 この一年ほど、己を嘆いた年はない。
 あれだけ好きだった音楽が、嫌いになった。街にあふれる音楽を耳にすると卑下するようになり、落ち込む。その場から急いで逃げた。初めて過呼吸を経験した。
 安定を求めて、楽器を置くこともよぎった。だが年齢を考えると、新しい仕事に就く自信もない。子育てと家事を妻に任せ、父親らしさを見せなかった自分の姿は、家族の目にどう映っていたのだろう。唱題がつらいと感じた。
 一方でこの一年ほど、池田先生の言葉をかみ締めた年もない。
 1990年(平成2年)、宮さんは関西大文化祭に出演した。歓喜に高ぶる参加者に、池田先生は厳愛の言葉を贈った。
 「明日からは、現実の社会の中で、(中略)生き抜いていただきたい」
 自信をなくした己との対峙という現実社会。苦労をかけた家族に「すまん」の一言も切り出せないでいる。
 しおれる心を鼓舞する音律があった。池田先生のピアノだ。右手のメロディー、左手の圧倒的な打鍵。「あれは命の鼓動。戦いの銅鑼だと思う」
 励ましの黄金律が、泥にまみれても生きよと叫ぶ。「俺にはこれしかない。やるしかない」。メッキの剝がれたビンテージのテナーサックスを手に、今をあがく。
 開き直りに似たプレースタイル。こびはしない。どちらかといえば無愛想。往年のパワーはないが、今までにないハートがある。
 「ジャズは感謝の上に成り立つ」
 そのことに宮さんが気付くまで、義父母は何も言わず応援し続けたのかもしれない。
 再起を誓って働いた。帰りが日をまたぐ時がある。宮さんが静かに玄関を開けると、声を抑えた妻の唱題が聞こえてくる。“この題目に、俺は支えられてきたんやな”
 「なにの兵法よりも法華経の兵法をもちひ給うべし」(御書1192ページ)。妻の覚悟もまた、感謝の音を響かせる夫の土壌になった。味わったことのない、現実社会という名の舞台。「家族のために吹こう。まだ終わりじゃない」

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